「おい。」

「ふん。」

「この…!」



呼びかけられた瞬間。
ふい、とそっぽを向いて無視を決め込むにベジータが青筋を立ててギリギリと歯を噛み締める。
挙句、そのまま立ち去ろうとする彼女を力任せに壁に押し付けてやった。
逃げ場を失くすように両側に手を付き、睨みつけると流石の彼女も驚いたらしく
目を丸くさせて漸くベジータと目を合わせる。



「あまりナメた真似するなよ。」

「…。」



顎に伸ばされた彼の指先へガブリと噛みつく。
目を見開くベジータに”アンタ嫌いだもの”と舌を出す。
わなわなと震える彼に臆した様子も無く目を細める。



「このメス猿がぁ……!」

「何よ、アンタだってオス猿じゃんか!言っとくけど、王子ったって此処は地球だしアタシは混血だから
 アンタの支配下じゃないんだかんな!
 それに、アタシ忘れないし。アンタ、アタシの事、子供産む道具とかなんとか言ったろ。
 …………許せない。」

「…!このッ、昔の事をいつまでも…!
 オレだって貴様が、このオレの顔を殴った事を水に流してやったというのに!」

「別に流してくれなんて言ってないし。」



火花が散る様な勢いで睨み合う。
睨み合いの末―――。



「き、貴様らそこで何をしている!」

「ピッコロ…!丁度良い所に!!」



ぎぎぎ、とベジータの顔を押しのけて走り出そうとする。
しかし、その腕を掴み引き寄せると小脇に抱えてピッコロを見下ろした。
その顔はからは見えないが、ピッコロが怒った様に”何のつもりだ”と睨みつけるのは見える。



「ふん、この女は借りて行くぞ。
 少し話がある。」

「い、嫌だ…!絶対ヤダ!!イヤーーーーッ!!」

「う、煩い奴だな!まだ何もしてないだろう!!」

「まだって何!?何する気だよ!ぴ、ピッコローーーー!!」



じたばた暴れてピッコロに助けを求めるだが、ピッコロは唖然とした様子でベジータを見ており
指先一つ動かせないでいた。
―――それもそうだろう。何せこの時、ベジータの顔は似つかわしくない程に赤かったのだ。
顔が引き攣っているピッコロに鼻を鳴らすと、さっさとを連れて飛び立ってしまう。





「離せよーーー!」

「いいから、少しは大人しくしろ!」

「変態!」

「なッ…!」



誰がだ、と怒鳴りながら降りたつ先は岩がごろごろと転がる荒野。
一体何を企んでいるのだろうか。
警戒するを降ろすと、腕を組んで彼女を見据える。



。貴様、オレのものになれ。」

「は…?だから、嫌だって・・」

「言っておくが、あの時とは違う。これは本気だ。」

「……つまり、本気でアンタの部下になれって?」

「わ、ワザとか!?ワザとなのか!?そんな事を言う為だけに、誰がこんな所まで連れて来るか!」



顔を赤くさせて怒鳴る彼に目が点になる。
―――信じられない。
だが、目の前で赤くなっているこの男は本気なのだろう。
は考え込み、頬を掻くと首を傾げた。



「え、じゃあ……好きなの?」

「さっきからそう言っているだろう!」

「………いや、言ってない。」

「言った!」

「じゃあ、惑星ベジータの言語はちょっと違うらしいな……。
 大体、”オレのもの”って完全に支配下みたいでヤダ。
 それに…アタシ、アンタの事き・・ンンッ!?」



黙れ、と唇を塞がれ目を見開く。
咄嗟に軽く手から気弾を放つが、それを受けても尚離れず。
角度を変えて重ね続ける彼の唇へガブリと噛みついてやった。
流石に離れる彼に、牙を剥く勢いで睨みつける。
ベジータは噛み傷をペロリと舐め、の腕を引く。



「オレは、貴様が…好きなんだ。」

「じゃ、じゃあ、ちゃんと呼んでよ。のがいい。」

「断る。」

「な…!何でだよ!」

「…こっちの名前はオレしか呼ばないからだ。」

「な……。」



顔を赤く染め上げて、そんな事を言うベジータに目が点になる。
信じられない。こんな奴を可愛いだなんて、そんなの。



「ど、どうだ。わ、わかっただろう!
 わかったなら、いい加減何か返事をしろ!い、いいか!
 言っておくが断る事は許さんぞ!」

「ヤダ!」

「なっ…!!」

「だって、ブルマが言ってたもん。
 アンタはろくな男じゃないから告白されても断っといた方がいいって!」

「あ…あの女…!!!余計な事を言いやがって…!
 だ、だがそんなのは理由にならんだろう!お前自身はどうなんだ、お前自身は!」

「え、嫌い。」



即答するに悔しそうに奥歯を噛み締め、”いいだろう…わかった”
そう言って背を向ける彼の後ろで溜息を吐いて肩を掴んで此方に向かせる。
そして―――自分から口づけて、笑った。



「嘘だよ。嫌いじゃないよ。」

「……。」

「少なくとも大嫌いじゃなくなってるから。」

「…、…。貴様は分かりづらい奴だな…。」

「お互い様じゃん。
 アタシだって、アンタがアタシの事好きだったなんて知らなかったもん。
 それどころか、いつも絡んできてムカついてたし。」

「そ、そうだったのか…!?」

「……痛かった?そこ。」



す、と彼の唇に触れると”これぐらい何でも無い”とその手を握る。
何処か嬉しそうな彼の顔を見ながらつまんなそうに声を漏らし、再び口づけてやった。
――――がじり。
バッとから飛び退いて口を押える彼にケラケラと笑う。



「この……!!!何のつもりだ!」

「べーっだ!」



飛び立つを物凄い勢いで追い掛けるベジータ。
その速度に”やばい”と更に加速してカプセルコーポレーションに戻る。





「ブ、ブルマーーーッ!助けてー!」

「わっ!な、何!?何なの!?」



着地して出先から戻って来たところであろうブルマに抱きつき、背後に隠れる。
目を丸くさせていた彼女が、を覗き込んで”あれ?”と声を漏らした。
それからハンカチを取り出し、口元を拭いてやる。



「んもー、駄目じゃない。
 口紅、落ちてるわよ?」

「口紅?そんなの塗ってないよ?……あ。
 それ、ベジータの血だ。」

「ち、血ぃいいいい!?ちょ、ちょっとアンタ達何してたわけ!?」

「え…!?あ、その…!わっ、来た…!」



凄い形相のベジータが着地し、腕を組んでツカツカと此方に歩いて来る。
その口元は血を拭った後だろうか、うっすらと血液が残っていた。



「な、何をしたらそうなる……、まさか噛んだの!?」

「だ、だって、あいつムカつくんだよ!!やっぱり嫌い!」

「あらら…、まったくベジータもさあ。
 一体何でこうなったのよ。」



”知らん”と血を吐き捨て、じっとを見る。
は居心地が悪そうにブルマの背に隠れ、たまにちらっと顔をだして彼を見る。
―――深いため息。
そして、”何でアタシが”と肩を竦めるとの手を引っ張り家に入っていく。



「アンタも来んのよ。ベジータ!」

「煩い。オレに指図するな。」

「あ、そう。いいのよ、別に。ちょっと協力したげようと思っただけなのに、
 いいなら勝手にこの広い空の下追いかけっこしてれば!」

「何…?」



部屋を貸すから、話をすければいい。
そんな事を言いながら、広い家の使っていない部屋に歩いていく。
は”話なんて無い、帰る!”と嫌がるのだがブルマが駄目だと制す。



「いい、。こういうのは中途半端が一番駄目なのよ。
 嫌いなら嫌いでバッサリふって、地球の為にあんな奴退治したっていいわ。
 でも、そうじゃないなら天邪鬼やってないで素直になってあげなさいよ。」

「べ、別にそういうわけじゃ…。」

「いい?ほら、早く入った入った!
 アタシもヤムチャとデートなんだから…まったく…。
 部屋はそこのボタンで内鍵かかるからね。」

「ぶ、ブルマあ…。」

「でももしも、ベジータが無理矢理あんなことやこんなことをしそうになったら
 迷わず非常ボタン押すのよ!」



”あんなことやこんなこと”
そんな事を言われ二人してギョッとして顔を赤くさせる。
その様子に目を丸くさせて驚くのはブルマだ。



「何よ、アンタ達。あんなことやこんな事くらいで赤くなっちゃって…。」

「よせ!い、いいから貴様はもう口を開くな!」

「ちょっと何よ!人が…まあいいわ。じゃあ、二人とも結果聞かせてよね!」



意気揚々と二人を部屋に突っ込んで立ち去るブルマに、残された二人が顔を見合わせて黙り込む。
――――無音。
ただただ、見つめ合うだけだ。





ついに沈黙に耐え兼ねたが手を伸ばす。
身構えるベジータへ一言小さく謝ると口元を治療してやった。



「お前…。」

「は、初めてだからどうしていいかわかんなかったんだよ…。
 それに、アンタの事どう考えていいかよく分かんないし…。
 でも、本当に好きになってくれてるのは分かった。」

「…、…。」

「……。」



治療が終わり、再び二人の間に沈黙が流れるとベジータが妙な咳払いをして
ちらりとへ視線を向けた。
それから――――一言。



「わ…悪かった、な。」

「え…。」

「……あ、あの時は敵だったとはいえ品の無い事を言った。
 こ、このままにしておいてはオレの品位が疑われるからな!!」

「…ぷっ。ほんとに素直じゃないね。」

「そ…!それは貴様もだろうが!いい加減、素直になれ!受け入れろ!はいと言え!」

「何でそこに拒否権がないんだよ…。」



言葉を詰まらせるベジータに笑う。
笑って、ずいっと顔を近づけて彼を覗き込んだ。



「ホントに好きなの?」

「まあな…!」

「まあまあなの?」

「………。」

、って呼んでくれないの?」

「呼ばん。」

「…何でそこだけ素直なの…。
 一回くらい呼んでくれたっていいのに…。」



肩を落とすに舌打ち、酷く不服そうに彼女の名を呟く。
これでいいだろう、とそっぽを向いてしまう彼に苦笑しながら
その頬へ唇を寄せた。

そして、ひょいっと彼から離れると照れ臭そうに頭を掻く。



「えへへ、やっぱこういうの慣れないや。
 でも、わかったよ。アンタの事嫌いじゃないって事にしとく。」

「おい。」

「ん?」



瞬時に目の前まで距離を詰めたベジータに何事かと顔を引き攣らせると、
彼が物凄く何か言いたげな視線を向けてくる。



「オレも呼んだんだ。お前も呼べ。」

「え、いつも呼んで……無かったね、そういえば。」

「お、お前気付いてなかったのか!?」

「あ、あはは…だって、アンタの事、きら・・っととと…。
 でも、そっか呼んでなかったんだ…。
 ベジータ?」



くわっと目を見開く彼に戸惑う。
顔を赤らめた所からして、恐らく照れたのだとは思うのだが―――。
は居心地が悪そうにそわついてチラリとスイッチを見る。
”逃がさんぞ”と彼が意地の悪い笑みを浮かべ、の腕を掴む。



「今度は噛むんじゃないぞ。」

「っ……―――…!」



口づけて、離れる。



「お前はオレの女だ。その、なんだ、お、オレの傍に居ろ。いいな!」

「そ、そうは言われても…修行あるし…。」

「お、オレに師事すればいいだろう。サイヤ人ならサイヤ人に師事しろ。」

「あの、さ。……もしかして、ピッコロに妬いてんの…?」



口にした瞬間。
凄い形相で否定されるが、彼の顔は額まで真っ赤だった――――…。









Fin...
4:39 2015/04/20