見る。
――逸らす。
逸らす。
――見る。
そんなやりとりが続いた後、が痺れを切らしたように
伊織の胸倉を掴んだ。
サングラスをかけた顔で凄まれると心臓が止まりそうだ。
「何だコラ、いい加減にしやがれ!」
「ヒィッ、教官滅茶苦茶怖いって!」
「さっきからチラッチラ、チラッチラ…」
「いやぁ、さんが俺の部屋に居ると緊張するっていうか…」
「ああ?」
「ゴメンナサイ、スミマセンデシタ、睨まないでクダサイ」
手をぶんぶん振って視線から逃げる。
一体何のつもりか、苛立ったように問う。
「用が無いならオレァ帰るぜ」
「ま、待ってくださいよー!」
「何だよ、纏わりつくんじゃねェって!」
「だって、おかしくないっスか!?
俺と教官って付き合ってるんですよね!?」
「馬鹿か!声でけぇよ!」
慌てて伊織の口を塞ぐ。
再度睨みつけ、盛大な溜息をついた。
「ったく…何で、こんなのと…。
オレも焼きが回ったか…?」
「そ、そこまで…!?」
「で、結局お前は何がしたいんだよ」
「だ、だから、恋人らしいことを…」
「……ブッ」
「え?」
「アハハハッ!お前、そんな緊張ガタガタで何するつもりだっての!」
おかしそうに伊織の頭を撫でまわす。
肩を落として嘆く。
「別にお前なら何しても割りかし拒まねェから」
「え…?じゃ、じゃあ…」
恐る恐るといった感じにの髪に触れる。
指先に吸いつくような質の良い髪だ。
―――拍子抜けした。
あんなに緊張していたから一体何をするのかと思えば。
「わぁ…」
「嬉しそうだなァ」
「だって、教官の髪っスよ!
真田先輩か理事長くらいしか触れない、教官の…!」
「ちょい待ち」
「え?」
「呼んでみ?」
「教官?」
「それだ…
ほら、名前呼んでみな」
って――。
不敵に笑い、伊織の頬に手を添える。
「あっ、それ卑怯ですって!
そういうのはオレがやりたいのに…!」
「そういうとこがガキなんだよなァ…」
「うっせぇ!こうなったら…!」
「こうなったら?」
「押し倒すッ」
「おォ!?」
思い切り両肩を押され、後ろに倒れ混む。
勢いあまって後頭部を強打し、短い悲鳴があがる。
途端に謝りながら頭部をさする伊織に、苦い顔で顔を背けてしまう。
――怒らせてしまった。
そう思って、顔を覗き込むとどうやら違うらしい。
顔を赤くして、口を一文字に結んでいる。
「、さん?」
「お前、ほんと馬鹿だなァ…」
「ええ?」
「近ェ」
「え、だって…押し倒してるし…」
急に黙ってしまったに困惑して。
それでも、その表情が普段と全然違うので鼓動が高鳴る。
そっと頬に触れると、かなり驚いたのか思い切り震えた。
「ちょ、ヤバイですって…」
恐る恐る唇を重ねて見る。
嫌がるように顎を引く。
それがまた、そそられると思った。
思わず追いかけると、微かにから息が漏れる。
「あ〜…本気、マジでヤバイ…」
困ったように言う伊織だが、次の行動に移そうとするのを
突然の来訪者が邪魔をする。
咄嗟にの上から飛び退き、傍にあった物につまずく。
ドサドサと荷物が落ちる中、は傍に置いて居た本に手を伸ばした。
「は、はい!」
『教官見なかった?少しノート見てもらおうと思ったんだけど』
「え?あー、居るぞ…」
ドアを開けると湊が怪訝そうに見ている。
「何でそんな慌ててるの?」
「いや?別に?」
「……ま、どうでもいいけどさ。
教官は?」
「さんなら、そこに…」
「さん?…ふぅん?へえ?」
にやにやと不敵に笑い始める湊に背筋が寒くなる。
楽しげに伊織を見、を見る。
「いつの間に仲良くなったんだか?
……あ、なるほど。そういうことか」
「な、何が?」
「最近順平がご機嫌だった理由。
なるほどね…。内緒にしとくけど、真田先輩には特に」
「……」
「でも、順平って顔に出るから気を付けたほうがいいよ。
あと、教官も持ってる本さかさまだけど」
ひょい、と伊織のわきから覗き込む湊。
苦い顔で嫌そうに本を床におく。
起き上がり、頭をかいた。
湊が小さく笑い二人を見て言った――。
”はがくれ”十回奢りで。
「よし、乗った」
「じゃあ、何も知らなかったことにするよ」
「んで、用事か?」
「そんなところなんだけど…まあ、いいや。
何してたんだか知らないけどどうぞ続けてください」
そういってドアを閉めて退散する。
先に動いたのはだった。
床に落ちた伊織の私物を片付け始める。
慌てて伊織も手伝い始めるが、その表情は複雑そうだ。
「はは、そんな顔すんなって。
そのうちな?」
「今じゃダメすか?」
「えェ?だって、今ってもなァ…」
「さん」
「あー……わァったよ。
…のかわり、電気は消せよ?」
――それが条件。
そういって肩を落とした。
Fin...
2011/01/25/01:07